介護もビジネスも、ゴール設定と工程管理がカギ
退院後の母の生活をどう考えるかーーーー
母が倒れてから3カ月を迎えるころ、容態が安定してきたのを受けて、担当ソーシャルワーカーから退院をうながされました。
「12月を退院の目処と考えてください」
スケジュールを提示され、焦る我々。
病状が重かった母は、利き手利き足である右半身に麻痺が残り、日常生活は要全介助。介護施設は利用せざるを得ない状態です。
今は10月。「施設側との調整期間をするので、1カ月前には決めて欲しい」と担当ソーシャルワーカー。
つまり、今から約1カ月で施設利用をどう考えるか、どこの施設を利用するかの決定をしなければなりません。
介護施設決定プロセスを設計する
介護施設を決めるためにどう動くべきか、クリエイティブコンサルタントとして運用設計も生業としている私は、瞬時に以下のステップが頭に浮かびました。
- 介護施設候補をピックアップ
- 介護施設にパンフレット資料送付依頼
- 見学介護施設ピックアップ/見学アポイント連絡
- 介護施設見学
- 家族会議にて介護施設決定
- 病院報告/親族共有

うむ、結構な工程数。
しかも、結論到達までに許された期間は、約1カ月とあまりない。
加えて、「施設入居」の場合は「特別養護老人ホーム(以下、特養)」、「在宅介護」を目指す場合は「老人保健施設(以下、老健)」と、選択により施設が変わることがわかりましたが、この時点では決めきれていないので、一旦は考えられる施設の全種類を見学したい。ますます作業は膨らみます。
ひとりではおっつかない!
早々に判断した私は、早速父姉を呼び、家族会議を開きました。
そしてビジネス経験で身につけた「マネジメント」力を発揮します。
私の仕事経験を応用する
私にはこんな仕事経験があります。
マネジメントとは、ざっくり言うと「経営管理」のこと。そのために、「目標設定」「組織化」「動機付け」「評価」「人材育成」をセットで考えろ、とドラッガーは言っています。
私はリクルート在籍時代から「人は、やらなければならないことがイメージできると動きやすい」と考えておりました。
副編集長として担当していた『フロム・エー』という紙メディアは、半年に一回はリニューアルを実施していましたので、マネジメント力が問われます。大規模変更なので、スケジュールとタスクを緻密に管理しないと、間に合わないのです。よってメンバーに対して、以下のことを意識してマネジメントしていました。
<私のマネジメントPOINT>
- ゴールを示す
- ゴールの理由・背景を説明する
- ゴール到達までのプロセス例を示す
- 担当が可変することのできる自由度も残す
- 進行中想定される壁を、他にもあるかもしれない前提で事前に共有する
- 進行環境を常に把握し、時にはメンバーを励ます
ポイントは「具体例」をあげてイメージがわくように働きかけるが、決めつけずに「自由度」も残し、日頃のルーチンワークとは全く違う「忙しさ」を楽しめるようにうながす、というところでしょうか。
説教くさいですね。
『フロム・エー』にとどまらず、『ガテン』『とらばーゆ』『タウンワーク』など複数求人メディアのリニューアルも実施しました。この、何度も実施した「創刊・装刊」時のマネジメント経験を活かし、介護施設選びを考えます。
プロセス設計と管理
まずは、役割分担とプロセスを設計してみます。
メンバー(父・姉・自分)の特性を把握する
まず最初に、メンバーの得手不得手を、頭の中でざ〜っと思い浮かべてみました。
<メンバー特性>
- 父:段取り下手、社交的、人と話すのが好き
- 姉:段取り得意、作業精度が高い、リーダーとなり率先して行動するのが嫌い
- 私:企画・発想好き、プロセス設計・管理得意、作業的工程が嫌い
なるほど三者三様。
役割分担を考える
各々の特性を加味し、得手を活かした作業分担にすればいい、と考えた私。二人の担当を以下に設定し、役割分担をしながら母の施設を決定していきたい、と伝えました。
<母施設決定のための役割分担>
- 姉担当:姉施設資料をとりよせて、その中から見学に行きたい施設候補をピックアップする。
- 父担当:ピックアップした施設に見学依頼の電話をかけて、アポイントを取る。
- 私担当:どういう段取りで・何を調べ・どういう判断をするのかなど、プランとステップ案を決める。二人の環境をと整えるべく、判断の相談にのったり、指示をしたり、スケジュール管理をするので、進捗をまめに教えてほしい。
スケジュールを設計する
施設決定のゴールを11月頭に設定。ざっくりスケジュールを提示しました。
<母施設決定プロセススケジュール>
- 10月1W:施設資料取り寄せ/見学施設ピックアップ
- 10月2W:見学施設にアポイント
- 10月3W:施設見学
- 10月4W:家族会議で議論。決定施設と理由を整理。
- 11月頭:決定施設を病院に報告
人は、「何を」「いつまでに」やらなければならないとイメージできると、動きやすくなります。
なるべく各論におとしつつ、担当意思を尊重する形で提示してみると、責任感ある二人は、作業イメージが湧いたのか好反応。「了解!」と快く引き受けてくれました。
進捗を管理する
その後、私は、進捗管理に徹底します。
姉からの「見学施設選択基準をどう考えるか?」という質問には、価格とエリアを基準に、いいなと思ったら直感でピックアップしてみて、と伝えたり。
父の施設見学アポイントについては、連絡するとすぐに見学許可をくれるのがわかったので、なるべく具体的な日程を決めてから連絡するようにお願いしたり。
ステップが滞りなく先に進むようフォローをしていった結果、ほぼオンスケ(オンスケジュール=設計したスケジュール通りのこと)で、順調に進行していきました。
施設を見学する
最終的に見学した施設は約12件。
特別養護老人ホーム、老人保健施設、有料老人ホーム、小規模多機能型ホームなど、母の対象として考えられる種類を網羅しました。
介護施設決定とその理由
家族会議の結果、最終的な家族会議にて出した結論は以下です。
●失語を発症している母は、術後半年は「リハビリを重視する」とし、「言語聴覚士がいる老人保健施設(老健)」を第一希望と考える
言語聴覚士がいる「老人保健施設」は物件数が少なかったので、あとはエリアで絞って決めていきました。
また、施設に入るまでには、施設調査員の方が、母の病状を確認するために来院したり、家族に対し審査面談などが行われます。その際には、母の「マインドセット」を共有し、何を大事にしているか、施設ではどういう生活を期待しているかを伝えました。
この判断基準と見学プロセスは、企画書pptにまとめ、親族にはこれをベースに共有していきました。
親族の間では、みんな母のことを真剣に考えてくれていたので、「あそこがいいらしい」「あそこはいい話を聞かない」という情報が錯綜していました。
よってここでは、少々やりすぎ感のある私の企画書pptも、功を奏し、みんな納得してくれました笑。
まとめ
- 主介護者(介護を中心となって行う人)は、「方向を示す」ことに徹することが大事。リーダーが作業に追われ「ゴールを示す」ことができないと、メンバーみんなが路頭に迷う
- 作業は、勇気を持って他の人に頼む。その環境を作るのもリーダーの役割
- 人に作業を頼む際のポイントは「協力を得たい理由」、「協力を得る姿勢」、「お願いする作業の具体化」
- 人は、「何をやるのか(具体的作業)」「なぜやるのか(ゴール明示)」「いつまでにやるのか(作業期間)」が理解できると、率先して動いてくれる
- ここまで提示できたら、あとは進捗管理。進行がとまり、メンバーが壁にぶつかっているようでにあれば、共に解決し、物事を推し進める