介護もビジネスも、決断の根拠となる十分な情報が必要
「(母の)容態が安定して来ましたね。ちなみに退院後は、どうしますか?」
どうって? どういうこと?
担当ソーシャルワーカーに聞かれた時の、介護に不慣れな私の、最初の反応です。
くも膜下出血で脳の手術をした母。不安定だった容態も3カ月を迎えるころには安定してきました。すると病院から退院をうながされます。
入院期間には原則制限があるようです。母が提示された期間目安は180日。どうも背景には①医療保健財政の圧迫観点(国)②経営観点(病院)があるらしく。どちらも理解はできますが、退院後の母の生活をどう考えるかわからないまま、正直病院から急かされている印象です。
「退院って、このまま放り出されるの!?」と不安いっぱいになりました。
母の退院後の生活に関して、その病院は「生活相談センター」があり、担当ソーシャルワーカーがつきました。
詳しく話してみると、問われているのは以下3点だと整理ができました。
- 母の退院後の生活について、家族はどうしたいか。「介護施設に入居する(以下介護施設入居)」のか「家で生活する(以下在宅介護)」かの選択。
- 「介護施設入居」を選択した場合は、「どこの介護施設」かの決定。
- 介護施設は事前見学をおすすめ(推奨)。
そして、施設一覧、マップ、などの資料をくれました。
ここまで聞いて、ようやくしなければならないことが見えてきました。
ですが、母の今後をどう考えるか…「介護施設に入れるのか」「在宅介護をするのか」…家族はどうしたいかなんて大事な決断、どうやって決めればいいか見当がつきません。
罪悪感にさいなまれ、安易に「在宅介護」を選んで、介護の維持継続が困難になれば、それこそ一番困るのは母です。
とはいえ、いきなり「施設入居」の決断は、罪悪感がぬぐえません。
母の病状に詳しい担当ソーシャルワーカーであれば、何かしら判断のヒントをくれるのでは、と思い、「介護施設入居、在宅介護、どう思いますか?」と聞いてみました。
ですが、ソーシャルワーカーが決めつけた、と思われるリスクを避けたのでしょう、「ご家族の意思次第です」としか答えてくれません。
う〜ん、どうしよう。
私は思いました。
「決められないのは情報がないからだ」
「介護施設入居」「在宅介護」を決めるための情報を収集する
私の仕事経験を応用する
私は編集出身。情報を集めて編むのが仕事です。
編集歴をざっと計算すると…約25年。わ、長い。情報収集に関しては、若い頃に先輩からみっちり教育を受けました。今では私の中でさらに発展し、Myポリシーみたいなものが出来てきています。その一部を紹介すると…
- 「わからない」のは情報がないから。情報を集め、理解が深まると、「これはいい」「これは悪い」「好き」「嫌い」などの感情が芽生えてくる。感情が芽生えさせることが情報収集「理解」のスタート。
- 情報収集のゴールは、判断の根拠となる情報が集まった時点。芽生えた感情に対して、「なぜなら〜」と結論・根拠が言えればOK。逆に言えば、判断ができない、判断の根拠が言えないうちは「必要な情報が不十分」と考える。
- 第二次情報(又聞き、加工資料など)は、参考にはするがそれだけで判断はしない。全ては一次情報から。
- 現地に行き、生の情報(一次情報)を取りに行くことを心掛ける。「足で稼いだ情報は強い」
- もらえる資料はなんでももらう(二次情報を複数集める。結論が似ていれば、信憑性が高いと判断できそう)。
説教くさいですね。
WEB社会の昨今、二次情報でも、情報が簡単に手に入ることは、とても助かります。
まず、WEB検索で概要把握 → その後現地でリアル情報を取りに行く
これが定番の動きです。この経験をベースに、母の施設判断をするための情報収集を考えよう、と思いました。

情報収集項目の整理
母の今後の生活を決めるためには、どんな情報を収集すればいいか。WEB検索や本購入で、病気や介護の概要は把握しました。
あとは大事な一次情報をどう集めるか。考えたのは以下5つです。
- 「母の病状」把握:母の病状について詳しく知る
- 「母の状態」把握:母の日常動作の可能範囲について詳しく知る
- 「施設」把握:見学に行き、各介護施設の違いや特性を知る
- 「プロの意見」把握:プロからみた判断基準の相場観を知る
- 「家族の意思」把握:1.2.を元に家族会議を開き、父姉がどう思っているのかを知る
早速、情報収集を開始します。
1「母の病状」2「母の状態」情報収集
まずは、担当ソーシャルワーカーに相談してみました。すると以下の提案をしてくれました。
- 母の病状説明については、医師からの説明の場を設ける。
- 母の状態把握については、リハビリ見学の機会をセットする。
これらを実施したことで、症状として表れている麻痺・失語・失行の度合いや、リハビリによる回復度合いが把握できました。
3「介護施設」情報収集
ソーシャルワーカーからもらった資料をもとに、候補を絞り、見学に行きました。
すると、同じ種類の介護施設でも、雰囲気や、大事にしていることなど、特性・コンセプトが結構違うことがわかりました。
自分たちの重視している「マインドセット」とマッチするかどうかが施設選択のポイントだと、判断基準がみえてきました。
4「プロの意見」情報収集
私が最もこだわったポイントです。
気持ち的には「在宅」で母をみてあげたいものの、できるかどうか自信がない。
ネットで調べてみると、「在宅介護」を選択した結果、負担が大きく、介護する側が潰れた、という話が結構出てきます。
では、どこまでが可能で、どこまでが無理なのか。プロの目から見た「在宅介護可能/不可能」の判断基準の相場を、なんとしても知りたかったのです。
担当ソーシャルワーカーさんが答えにくいのであれば、今度は地域包括センターの方に聞いてみようと、相談しに行きました。
そしてズバッと、「在宅介護可能/不可能の判断基準をどう考えればいいか」と聞いてみました。
すると、何件もの介護シーンをみてきたのでしょう、はっきり答えてくれました。
「一番の負担は排泄介助です。どの程度の介助が必要かで、介護する側の負担は大きく変わります」
なるほど、ひとりでおトイレに行けるかどうかを基準にしてみるのも手、ということですね、と判断基準が明確になりました。
5「家族の意思」情報収集
ある程度情報が収集できた段階で、家族会議を開きました。病状が重かった母は、右半身に麻痺が残り、日常生活については要全介助。失語については、はい・いいえの意思確認が辛うじてできるレベル。もちろんおトイレは一人で行くことができません。
これらをもとに、同居する父は高齢、私は現役労働者、姉は遠距離で、終日母の世話をみられる状態にないという結論に達し、わたしたちは「介護施設入居」を選択しました。そして、「入居介護施設」について、さらに情報を絞って選択していきました。
ここまで整理し、家族の意思を統一できた段階で、担当ソーシャルワーカーに報告しました。
情報収集メリット
母の「介護施設入居」の決断は、「かつてのようにはもう一緒に暮らせない」「元気な頃のように楽しい時を一緒に過ごすことはもうできない」という、わかってはいるけど認めたくない現実を受け入れなければならず、家族にとって悲しく、辛いものでした。
ですが、決断に至った背景・理由を、集めた情報をもとに説明ができている自分がいました。
情報収集を十分に行うと、「それはなぜか」という根拠が作れます。この「それはなぜか」という問いは、他人から問われる、というだけでく、自問自答も含みます。
常に「なぜか」に答えられる状況が作れれば、ブレない判断ができるはずですし、後悔も減るはずです。
説明しながら、必要な情報を収集し、家族の意思として論拠を示すことができている自分に気づき、後悔をしない決断ができている…と確信していきました。
まとめ
- 昨今の急性期病院は(病状が安定すると)早い段階から退院をうながされる
- 退院後に何をどうすればいいか、「段取り」についての情報集収集先は、我が家の場合「病院ソーシャルワーカー」
- 「介護施設入居」「在宅介護」判断基準の情報収集先は、我が家の場合「地域包括センター」
- 「介護施設入居」「在宅介護」の判断基準の目安は、我が家の場合「一人でおトイレにいけるかどうか」
- 決断に対して、「なぜならば」を説明することができれば、十分な情報収集ができたことといえよう
- 罪悪感との戦いを制するのは「判断の根拠の明確化」